タイトル
セイヨウミツバチゲノムの解読完了


国際ミツバチゲノム解読コンソーシアムはセイヨウミツバチ(Apis mellifera)のゲノム全塩基配列の解読を完了し、2006年10月26日付Nature誌に発表した。このプロジェクトに理研ゲノム科学総合研究センター(榊佳之センター長)遺伝子構造・機能研究グループ(林崎プロジェクトディレクター)のピエロ・カルニンチ上級研究員らが参加し、独自に開発した完全長cDNAライブラリ作成技術でゲノム解析に貢献した。

セイヨウミツバチ Apis mellifera


社会性昆虫としてのミツバチ−
 セイヨウミツバチは、社会性昆虫であり、女王蜂と働き蜂というカースト分化や働き蜂の齢差分業といった高度な個体間分業が存在する。また働き蜂は8字ダンスにより記憶した花の位置を仲間に教えるなどの高度なコミュニケーション機能を有している。さらに、研究におけるモデル生物であるだけでなく、花粉の媒介を通じて地球の生態系に重要な役割を果たしており、養蜂にも用いられる有用生物でもある。
 これまでに昆虫では、発生生物学のモデル生物として重要なショウジョウバエと、マラリアを媒介するハマダラ蚊のゲノムが解読されており、セイヨウミツバチはゲノム解読完了3番目の昆虫となった。

論文のトピックス−
 今回の解析では、先天免疫関連遺伝子や解毒酵素、外皮形成タンパク質、味覚受容体の遺伝子はショウジョウバエと比較して少ないが、嗅覚受容体遺伝子ははるかに多いことが明らかになった。これは、ミツバチの生態や社会構造と深く関係している。例えば、嗅覚受容体に関連する遺伝子が多いことは、異なるカーストの区別や、コロニーを形成する際のフェロモンを介したコミュニケーションの重要性を反映しているといえる。また、ミツバチは巣をつくって群居するため、外皮はハエや蚊に比べて簡単で済むと考えられる。さらに、ミツバチは群れで行動するため、他の仲間がすでに吸ったことのある蜜を吸うことになるため、毒のあるものを摂取する確率は少ないといえる。このため、味覚受容体の遺伝子数は少なくて済んでいるのかもしれない。
 とはいえ、すべてがゲノム解読で明らかになったわけではない。例えば、免疫関連遺伝子が他の昆虫より少ないことが観察されたが、これはなぞの一つである。ミツバチは狭い空間に多数の個体が密集して生活しているため、病気が容易に広がると考えられ、強い免疫系が必要ではないかと思われるからだ。未知の防衛パスウェイが存在するのか、あるいは身づくろい行動などの何らかの社会性行動により病気の蔓延を防いでいるのかもしれない。
 この論文は、ミツバチの生涯の中での、遺伝子発現の変動を解析した始めての論文でもある。とくに、働き蜂が巣の外に出て働き始める時期には、脳における遺伝子の発現変動が顕著であった。また、女王蜂のみで発現している遺伝子や、働き蜂でのみ発現している遺伝子も見つかった。とくに、代謝に関係する遺伝子の発現量の違が極めて大きいことが観察された。
 今回のゲノム解読で、発生・分化や社会性行動の分子メカニズムについての研究に弾みがつくと期待される。